(旧)週間買った本

2013年まではてなダイアリーに書いたもの。

『メメント・モリ ―私の食道手術体験』

後藤明生 1990年 中央公論社 ISBN:4120019160

某所のブックオフで購入。800円、帯付、目立った汚れなし。平成に入ってからの本であるし、ネット上で探して手に入らない本ではない。しかし、店頭で売っているのを見たのは(都内の古本屋をそれなりに廻っているのだが)初めてである。欲しい本が手に入ったのだからくだくだ言うことはないが、2000円ぐらいなら出してもよいと思う本である。
作品は婦人公論1989年1月号から12月号に連載された。作者が55歳の時、1987年の、大手術・入院体験を述懐するという内容。
しかし話は前後し執筆時の事情(=作者の現況)が入院時の記録と交差する。そして少し意外な形で話は閉じられる。その体験は、作品としては『首塚の上のアドバルーン』にもっとも良い形で反映されているかもしれない。ただこの本では、事実と作家自身の距離感が他の作品と異なる。それは、もし他の作家であれば創作とエッセイ集の違いという形になるのかもしれない。後藤明生の場合その違いは少なくとも普通の形ではないのである。