(旧)週間買った本

2013年まではてなダイアリーに書いたもの。

狂人関係

上村一夫 ホーム社集英社 ISBN:4834272265
1巻の帯の絵が買うきっかけであった。
内容は「北斎と捨八、ふたりの絵師の姿と、江戸に生きる名も無き人々の人情を描いた時代ロマンの傑作」という帯の紹介のとおりだと思う。
そうした点でいえば、広い意味でのいわゆる「作家」を題材にしたマンガは、作者のマンガや創作一般に関する考え方が表現されていて、興味深いことが多い。それも作者が(当時)売れっ子だった場合、面白いことが多いと思う。
上村一夫はこの作品の直前、1972年11月まで『同棲時代』を連載している。そのヒットの程度は少し実感しにくいところもあるのだが、漫画アクション誌上で「四畳半フォークとともに若者たちの絶大な支持を受け、“時代の気分”を築いた」(「別冊宝島257 このマンガがすごい」)とある。とりあえずこの『狂人関係』に、人気作家のマンガ観が表現されているのは確かである。
また内容の点でもう一点、格調の高い詩情から下品な冗談まで描かれる内容の幅が広いのは特徴的だと思う。
さてそれでも自分が一番凄いと思ったのは、マンガとしての表現の巧さである。女性だけでないその他人物や構図も魅力的だし、構成、つまり対象をどの角度から捉えコマ割していくかという点でも、何度も読み返すに足る。
2巻の巻末にはこれまで出た同作の単行本の紹介がされていて、作り手の思い入れがわかるのはいいのだが、いくら完全版だとはいえ、なんでこんなに顔近づけてちっちゃい文庫で読まなくちゃならんのかということだけが残念である。