(旧)週間買った本

2013年まではてなダイアリーに書いたもの。

今頃書評らしきものをまとめてみるつもりになった。
まず長い前振りを。一般の発売日だというので、12/5に仕事終わってから池袋のジュンク堂に行った。いささか予想していたとはいえ棚になく、検索機で見たら在庫なし。それでもせっかくだからその情報をプリントアウトし、店員に詳細を聞こうとしたら先客がいた。中年の紳士であったが当の本の正確な情報がつかめていないようで、うまく店員に伝わらない様子。そのレシートふうの紙を差し出し横から口を出す。店員の答えは、数日前から入荷していて売り切れとのこと。ちっ、この本が待ち望まれていたことがわかってないなと思いつつ、注文しますかとの問いに「いいです」と返答。これでは書店まわって探すのも厳しい(何せ7000部だ)とネットで探すことにする。これが正解、bk1で即日発送してくれた(夜だったので次の日の発送だったが)。うまく手に入り得意だったりしたものである。ちなみに池袋のジュンク堂、数日後に少しは再入荷していたようだった。しかし注文分もあったのだろう、一日もたたず品切れになっていた。12/7に届いた本は、もったいないと思いつつ、次の日までに大部分読み終わっていた。読みやすい方だし、すべて一気に読んでも2時間かからなかったかもしれない。
ということで、そもそも別にもう一冊買って誰かに持たせても良い本であるのだが、もし書評で5段階評価をするなら星4つである。これはごくごく単純な理由で、もっと評価を高くすべき本をいくらでも知っているということだけである。
さてまともな評価をするなら、まず切り口の一つとして、情報としての価値はどうかということがある。「オシム信者」でなくとも、夏に出たエンターブレインの「サッカーJ+」にオーストリアで出版された伝記の抄訳が連載されていることは、まったく知られていないわけではないだろう。かなり単純化するなら、この本の「主人公」の過去については目新しい情報は少ない(改めて断わっておくと情報の細部は別である。まったく知られていない話ばかりではない、ということである)。また05年のジェフの試合に関連した話は、試合後の記者会見、取材等で多少は知られており、これもそれほど珍しくはない。情報としての、少し悪い言い方だがネタとしての価値は、それほど高いとは思わない。私が一番興味深かったのは、通訳の間瀬さんの話である。彼が語るオシムの姿は、この本の中でも少し他と違っている。文字通り身近に接しているだけあって、ふだん隣りにいるとこんな人だ、というのが伝わる。トランプをするオシムの話などは、今まであまり知られていなかった(というか「ここだけの話」だったりする)ので一番のポイントとも思える。上司になるとどんな感じか等想像できて楽しい。
一方、読み物としての評価をするなら、前半、つまり5章まで読んで、自分がジェフのサポーターであれば間違いなく泣かされたと思う。1章の「奇妙な挨拶」の理由がその足取りを辿った後の5章の最後で明かされる、という構成は、一種の回想による物語のようであり、単純だが結構「泣かせる仕掛け」である。無論そういう仕掛けは題材と著者の構成力によるもので、よくできている。
最後に筆者の継続したユーゴ関連の著作としての見方がある。もしこの本の紹介をするなら、オシムについての本であると同様に木村元彦氏が書いているということが同等に強調されるべきだろう。『誇り』『悪者見参』『終わらぬ「民族浄化」』という継続した著作のひとつとしてのイビツァ・オシムの本ということが大事である。うってつけの著者による、時機を得た幸運な本だと言える。欲を言えば著者のユーゴサッカーに関する仕事は大著としてまとめられるべきであろう。それにはまだ時間が必要だろうか。
と、書評は述べてみたものの、この本を読んでオシムその人についてほとんど触れないのは、不自然に違いない。しかし著者がさまざまな人から引き出した証言、賛辞がオシムの尊敬すべき人間性を浮き立たせていて、さらに付け加える必要は感じない。加えてこの本を読んで何かしら感銘を受けたのなら、まず現在のオシムの仕事の成果を自分の目に焼き付けるべきだろう。単純にバックスタンド側で彼のベンチでのリアクションを見るのでさえ悪くはない。まずスタジアムに行ってみることである。